2014年3月の記事一覧

仕立て服

私は20年ほど前に仕立てたジャケットを今でも愛用している。英国では当たり前の話だが、既製服に慣れた日本人にそれを言うと、たいていの人はびっくりする。既製服は、使い捨てるモノだと思っているからだ。既製服=使い捨てという発想は、世界でもっとも早く既製服の量産に成功したアメリカが、大戦後に日本へ持ち込んだ。Hand me downという言葉が知られる。以降、日本の手仕事による服作りは下降線をたどり、この四半世紀で、テーラーの数は半分以下に激変してしまった。

既製服と仕立て服の相違を大別すれば三つある。ひとつは前者が初めからシルエットが存在するのに対し、後者は存在しないこと。次に前者が不特定多数のために作られた量産服であるのに対し、後者はその人だけのための注文誂え服であることだ。最後に、前者が機械により作られ、後者はすべての工程がハンドメードによることである。 ハンドメードの縫製は糸がゆっくり布地に入っていく。針を深く入れるため、糸は縫い目より長く布地に潜り込む。針を戻し、らせん状に布地を縫い上げていく。結果として、縫い目に柔軟性が出る。一方のミシンによる機械縫いはネジとバネで加減皿を調整しながら上糸と下糸を浅く引っかけていく。返し縫いと呼ばれる。ミシンの速度を上げるほどに、縫い目は固く締まる。

スーツ姿の美しさとは、上着とズボンあわせて40片ほどのパーツのつなぎ目の処理いかんにかかっているのだ。人の複雑な動きに応じて、その部分が少しも引きつらず、体にフィットし、動きが停止したときに、バランスよく元に戻らなければならない。

2014年3月15日||トラックバック (0)

カテゴリー:メンズファッション